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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 01:02:32.93 ID:pYxLBRX70

僕が本当に久しぶりに帰郷する事になったのは、全くの偶然からだった。
しかし根なし草のように方々を飛び回る生活に疲れていた僕にとって、
再び故郷で過ごせる時間はかけがえのないもののように思われた。

慣れ親しんだ空気を吸い、悠久に変わらぬ山を見、懐かしき友と語る、
そんな生活が待っている筈だった。


しかしそこに待っていたのはまるで別の世界だった。

その時僕はふと、その言葉を思い出した。

「一つの世界が、我々の内なるところで、少しずつ壊れてゆく。」

                  ―――C.モルガン 『人間のしるし』
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 01:04:23.20 ID:pYxLBRX70

個人だとか、一つの共同体だとか、そういうものがいくら頑張ってみたところで、
世界のという大きな川の流れには逆らえない時が往々にしてある。

この不景気の煽りを食らって、僕は職を失う事になった。
まさかこの大企業が、と初めは自分の耳を疑ったが、ご時世にはかなうまい、
仕事も板につき、脂が乗り始めた時期であった僕は、世の理不尽さを嘆きはした。
しかし、反対に、妙に穏やかな気持ちも感じていた。

つまりリストラを宣告された僕は、アパートの一室で静寂をかみしめながら静かに考えた。


( ^ω^)「僕は職を失った。しかしこの心の静けさは何だろう。
       こっちへ出てきてうん年。思えば毎日仕事に忙殺されてきた。
       あちこちを飛び回り、見識を広めることはできたが、
       今となっては故郷に思いが惹かれる。
       父の死に目にも会えなかった僕が今更帰ることを、
       古里よ、君は笑うだろうか。」

アパートを引き払うのに時間はかからなかった。
僕は夜行列車に乗ってあの道を引き返す。
かつて若者が意気揚揚と上ったあの道を。




5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 01:06:52.01 ID:pYxLBRX70

車窓から射す朝日に眼を覚ますと、そこには見慣れた風景が広がっていた。
僕は年甲斐もなく興奮する心を抑えきれなかった。

( ^ω^)「おお、おお……」

幾度、冷たい砂漠の中でこの景色を夢見ただろう。
僕かて望郷の思いが無かったわけでは無い。

霧中に夢か現か、渓谷の静かに流れを湛え、
秋に色づく葉の流るるは、唐くれなゐの竜田川もかくや。

朝露の一面に光るは、綺羅星に似て、
緑の空にも気高く鳥は鳴く。

抜ければ遥々広がる田園に、金色の粒は輝いて、
案山子の一つ二つ立つを見るにつけても、旧友あい交歓する心地だ。

( ^ω^)「帰ってきたのか、僕は……」




6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 01:10:36.85 ID:pYxLBRX70

駅へ降り立つ。
そう言えば電車が通っていることだけが、この村唯一の自慢だった。

( ^ω^)「線路に寝そべって、車掌に怒られたこともあったっけかな。」

その車掌は影もない。萎びた田舎の駅は、今はもう無人であった。
空を切って会釈すると、改札口を潜った。


(´・ω・`)「……?」

駅の前には個人のタクシーが一台。
運転手と目があった時、僕は自分が時を遡ったかと思った。

彼の言葉が、ともに歩いた場所が、思い出が、忘れていた筈のことまで、
一瞬の内に何から何までまざまざと蘇ってきた。
それはまるで僕の脳に、外の空気がものすごい勢いで入ってきたかのようだった。

(;´・ω・`)「……ブーンじゃないか!?ねえ、き、君。そうなんだろう!?」

彼はタクシーを飛び出した。
次の瞬間、遥かに時を隔てた友情は、一つの抱擁となりて閑散とした駅の広場に返り咲いた。
僕は無意識のうちに泣いた。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 01:14:47.54 ID:pYxLBRX70


(´・ω・`)「まさか君が戻ってくるとはね。ずっと連絡も取れなかったのに。」
( ^ω^)「あちこちに飛び回っていたからね。息をつく暇もなかったように感じる」
(´・ω・`)「どうして急に帰ってきたんだい。」
( ^ω^)「僕自身も予想外だった。けど君も先の恐慌を知ってるだろう?」
(´・ω・`)「さて、僕達田舎者には恐慌よりも凶荒の方が致命的だからね。」
( ^ω^)「はは、うまい事を言う。何、ちょっとうちの会社も煽られてね。」
(´・ω・`)「大変だっただろう、今日はこの後どうするんだい?」
( ^ω^)「ん、まず実家に。母さんも驚くだろうしね。」

その時の、彼の微妙な表情の変化を、僕は普段なら見逃していただろう。
しかし久しぶりの帰郷にあって、
懐かしき物は何一つを見逃すまいと虫けらにすら注意を払っていた僕ならば、話は別だった。

( ^ω^)「……母さんに、何かあったのかい?」

黒光りするタクシーによりかかった二人の会話は、短い沈黙に遮られた。
彼は煙草に火をつけると濃い煙を二度吐き、運転席のドアを開けた。

(´・ω・`)「……乗りなよ。どうせ客も来ないさ。」

僕はやはり口を噤んだままタクシーに乗り込んだ。
芳香剤でごまかしきれない煙草と油と匂いが鼻についた。



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 01:19:47.89 ID:pYxLBRX70

タクシーの向かった先は村の中心にあるささやかな診療所だった。
僕はそこでまた、思いがけぬ再会を果たすことになる。
この村を出て行った、二人の内のもう一人、村一番の秀才の彼女だった。

(*‘ω‘ *) 「三年間の僻地医療研修でまさか自分の故郷へ戻ってくることになるとはね。
       私自身もびっくりだったわ」
( ^ω^)「僕はてっきり大学病院で研究でもしてるのかと……」
(*‘ω‘ *) 「そうね、研修の後は大学へ戻る選択肢もあったわ。でも私が生まれ育った土地ですもの、
       医者不足を放ってはおけないわよね。」
( ^ω^)「……ショボンに何も言わずに連れられてきたんだけど、母さんは……?」

彼女は大きな診察室の窓のカーテンを開けると、山の向こうを遠い眼で眺めた。
子供のころからあの山に見下ろされてきたのだった。
丘陵の不格好な線はいつまでも変わらない。

(*‘ω‘ *) 「帰ってきたばかりの貴方には酷かもしれないけどね……
       いいえ、逆かもしれないけれど……」

彼女は徐にその山の方を指差した。
僕は一瞬その意味を理解できなかったが、
頭の中で村を駆けまわった僕が、
急な山道を登り山の中腹――子供の頃決して近づいてはいけないと言われたあの場所へたどり着いた時、全てを理解した。

( ^ω^)「……後、どのくらいですか?」

(*‘ω‘ *) 「良くて二カ月。」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 01:26:17.49 ID:pYxLBRX70

貴方が帰って来たと聞いて奇跡でも起こったかと思ったわ。
親子の愛が呼び寄せたのかしら。
お母さんには私が連絡しておくから、面会許可は少し待ってて頂戴ね。

彼女はそう言った。

僕はショボンのタクシーに乗りながら、激しい自責の念にかられていた。

(´・ω・`)「……僕は悪い事をしたかな。」
( ^ω^)「いや、悪いのは……」

僕は激しく咳きこんで、自分の右手を自分でつねってみた。
そうでもしないと、今にも涙があふれかえってしまうような気がした。
その涙すら、申し訳なくて流してはいけないような気がした。

(´・ω・`)「少し気分転換はどうかな、何もない村だがドライブと行こうじゃないか。」

ショボンはそう言うとテープを取り出してステレオにセットした。
あの頃流行った、乗りの良い音楽が車の中にあふれ出した。
僕の左手の窓が開いた。

(´・ω・`)「見なよ、明るいいい天気だ。絶好の日和だ。」



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 01:30:53.83 ID:pYxLBRX70

歳月がたつのは恐ろしいもので、
僕の知る「懐かしい場所」は悉く変わっていた。
田舎へ住んでいたものが帰郷してみて、
妙に現代化した故郷に寂しさを覚えるというのは良くある話だが、
それがまるで面影もなくさびれてしまっているのは、
それよりもさらに心痛激しいものだ。
小学校や中学校は廃校し、
草で一杯の校庭にグラウンドの照明だけが木偶の坊のように突っ立っている。

田畑も良く見れば減反と休耕に穴があき、
小川はせき止められ湿地と化し、沼は干からびて跡形もない。
商店は潰れ、ヤブカラシが一面を覆う、
森も手入れはされなかったようで、木々の雰囲気が違う。

列車で遠くから眺めた時は気がつかなかったが、
どうやら僕の故郷は本格的に萎び始めているようだった。

( ^ω^)「おお、おお……」




15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 01:35:07.82 ID:pYxLBRX70

不思議だったのは、それをショボンがなんとも思っていないかのような素振りだったという事だ。
いかにも平然として、慣れた手つきでハンドルを切る。
そう言えば彼は昔から耕運機で畑仕事の手伝いをしていたっけか。
免許がなくても私有地なら問題ない、そう言って笑ったのは何時だったか。
あの日はドクオが確か追いかけられて……

( ^ω^)「ど、ドクオは……ドクオはどうしてる?
       あいつの家は酒屋だったよな。家を継いで頑張ってるのか?
       小さい店だが何時かは世界中に支店を出してやるなんて、
       言ってたよなあ昔。はは。」

(´・ω・`)「ああ、ドクオか、行ってみようか?驚くだろうよ。」

僕が帰ってきてドクオが驚くという意味で言ったのだろうか。
それとも……

僕は何か既に嫌な予感を感じてとってしまった。
ズボンのベルトを緩めると、大きく深呼吸をして目をつぶった。
肩が痛かった。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 01:37:49.51 ID:pYxLBRX70

酒屋は営業しているようで、とりあえずは安心したが、
世界進出なんて夢のまた夢のような状態だった。
僕の記憶にあるあの店よりも、店自体が小さく見えた。

( ^ω^)「ごめんください、ドクオ、内藤だけど……」

('A`)「あ?……何、内藤?」

店の奥からどたどたと大きな音がした。
僕はその時、再会の喜びに慌てて駆けて来る級友の姿を想像し、
そして再会の喜びに今夜酒を酌み交わす友人たちの姿まで想像した事を、
すぐ次の瞬間には恥じることになる。

誰が予想しただろう。僕の目の前に出てきたのは、ドクオ本人よりも前に灰皿だった。
僕はそれを間一髪でかわした。

からからと冷たい音が、狭い店内に響いた。

('A`)「てめえどの面下げて帰って来やがった!」

遅れて鬼の形相で飛び出してきたのは、あの華奢だった少年時代の彼からは、
とても想像がつかないような貫禄の男だった。
ひげを伸ばし、顔の陰影も濃く肌の色も変わっていた。


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 01:45:14.85 ID:pYxLBRX70


成程、確かに僕は「今更」帰ってきたのだ。
しかし何故怒られなければならないのか、全く不思議だった。
僕はきょとんとして目の前の彼を見つめた。
恐怖と混乱がごちゃごちゃになって、僕はどんな顔をしていたかもわからない。

('A`)「てめえのせいで、てめえのせいでなあ……」

ドクオは僕の胸倉をつかみ拳をあげかけたが、
後ろからショボンがそれを制した。

(´・ω・`)「ドクオ、やめな。……誰も悪くないんだよ。」

僕の首元の手が幾度となく震えた。
ドクオは嗚咽を漏らしながら、僕を暫く睨み続けていたが、
その手を放すと肩を落としたまま店の奥へ下がって行った。

僕はもう声を出す術もなく、地面にへたりと座り込んでしまった。
ショボンがその肩に手を置いた。

('A`)「……ツンにはまだ会ってないのか、ブーン。」

先ほどとは違う、僕の知った声が、店の奥から聞こえた。



19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 01:53:36.83 ID:pYxLBRX70

( ^ω^)「ああ、今帰ってきたばっかりで彼女の家にはまだ……
       あ、いや、何だこの村にいるのか。どこかへ嫁に出たかと。」
('A`)「そうだな、俺も嫁に欲しかったし、
    お前もそうだった、ショボンもそうだったな。
    あいつはみんなのアイドルだった訳だ。」

暖簾の奥の見えない陰の中で、ドクオはそう昔語る。

( ^ω^)「そうだったね、懐かしい話さ。ドクオ、覚えているかい、あの夏祭りの日や……」
('A`)「おう、懐かしい話だな。」

ドクオはそう遮った。

('A`)「懐かしい話さ、お前にとってはな。
    けど俺達にとっては現在進行形の話なんだよ。」 
( ^ω^)「……」
('A`)「ショボン、今日一日相手してやるつもりなんだろ?
    つれてってやれよ、あいつの所へ。」
(´・ω・`)「……ああ。」

タクシーに再び乗り込んだとき、ドクオがもう一度店先へ出てきた。
その目はうすら涙をたたえ、やはり僕を睨むのだった。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 02:05:36.22 ID:pYxLBRX70

彼女の家の前に着くとショボンは言った。

(´・ω・`)「多分君は驚くよ。でもどう振る舞うのが一番かすぐにわかると思う。」
( ^ω^)「……どういう事?」
(´・ω・`)「おばさーん、ショボンですが、ツンさん居ますか?」

ξ゚⊿゚)ξ 「あら、私ならいるわよ?ショボン、今日の授業中の荒巻先生ったらなかったわよね!」

そう元気に声を上げると、家の中からは確かに彼女が出てきた。
その姿は、昔とまるで変わらなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「あ、ブーンじゃない、なんか久しぶりに会った気がするわ。
      昨日はどうしたの?風邪?って、馬鹿は風邪ひかないって言うしね、 
      大方さぼって川へでも行ってたんでしょう?今度はあたしも連れて行きなさいよね!」

そう、昔と変わらなかった。
昔と同じように、あのセーラー服を着て、他愛もない事を実に楽しげに喋る、
元気で、快活で、愛らしい、あの頃の少女のままに、

今、僕の目の前で、一人の中年の女がふるまっているのだ。

あの頃と、何も変わらない。


ξ゚⊿゚)ξ「しかし嫌になっちゃうわよね、もう秋だっていうのに、
      今日の暑い事ったらないわ。ブーンもそう思うでしょ?」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 02:12:16.81 ID:pYxLBRX70

僕は今までの人生でこれほどの困惑を味わった事は無かった。
それは驚きであり、悲しみであり、痛みであった。
僕はいったい何と答えたらいいものか、迷うかと思いきや、
口をついて、返答がでた

( ^ω^)「やってられないお!しかも天高く馬肥ゆるなんちゃら、
       太るのも心配だお!」

ξ゚⊿゚)ξ「ばっか、あんたは男だからいいのよ!
      私にとってはそれは死活問題よ?」

(´・ω・`)「まあまあお二人さん、読書の秋とも言うじゃないか。
      僕は学校の図書館の本を端から読んでみようと思うんだけれど……」

ξ゚⊿゚)ξ「そんな無茶やってるならスポーツってのはどう?
      野球は……人数たらないからバレーとか。」

( ^ω^)「それは良いアイデアだお!明日さっそくやるお!」

(´・ω・`)「よし、僕がドクオも誘っておこう。」

ξ゚⊿゚)ξ「流石ね、よーし、明日は燃えるわよ!」


僕達は暫くの雑談のあと別れた。

僕はもう多くは聞かなかった。


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 02:24:11.49 ID:pYxLBRX70

精神疾患としての退行は、程度の差こそあれ決して珍しい障害では無い。
彼女の時間は、中学生のあの時のままで止まっていたのだった。

僕は彼女の母に一通り挨拶をし、再びショボンの車に乗り込んだ。

(´・ω・`)「さて、君の家へ向かっていいのかな?」
( ^ω^)「……何時からなんだい?」
(´・ω・`)「……高校時代は大丈夫だったらしいんだけどね。
      学校が無くなったら駄目だったらしい。」
( ^ω^)「……気の強い意志のしっかりした子だったんだけどね。」
(´・ω・`)「どうだろう、案外裏返しだったのかもしれないよ。寂しさの、ね。」
( ^ω^)「僕は好きだった女のことも何も知らなかったのか。」
(´・ω・`)「彼女も君が好きだったんだよ、今も君の名を一番多く呼ぶそうだ。」
( ^ω^)「……だからドクオが。」
(´・ω・`)「正直に打ち明ければ僕も幾分は君が憎い。」
( ^ω^)「……」

僕はこの故郷が懐かしいのだろうか。あるいは、ここは僕の故郷だろうか。
土地も人も、みな変わってしまった。
親は肺を病み死の淵に、
ある友は心を病み、またある友とは相容れない。

それでも僕は、この場所を、故郷と言えるのか。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 02:31:47.87 ID:pYxLBRX70

( ^ω^)「なあショボン、この村は変わってしまったね。」

(´・ω・`)「そのようだね。」

( ^ω^)「僕らの若いころにはもっと活気にあふれていたよね。」

(´・ω・`)「そのようだね。」

( ^ω^)「草も木も、人も、もっと輝いて、退屈だったけど大切だった、
       学校での授業の後は、僕たちは山で遊び川で遊び、
       あの商店街でお菓子を食べて、ふふ、ドクオが団子をごまかしてしょっ引かれたこともあった。」
       夏には田んぼに入り、泥を投げ合い、秋には一面の稲穂に感動し、
       厳しい冬の寒さも皆で遊んでいるときには忘れられたね。」

(´・ω・`)「そのようだね。」

僕はもう涙を抑えきれなかった、鼻水も一緒に、顔をぐちゃぐちゃにしながら、僕は続けた。

( ^ω^)「父さんは厳しい人だったけれど、密かな優しさをもっていたよ。
       二人で釣りに行って、そうだ、二年生の頃秘密の釣り場所を見つけただろう、
       あれは実は父に教えてもらったんだよ。自分の手柄にして悪かったね。
       母さんだって最高の母さんだった。どんなに寒い日、暑い日でも毎日ご飯を作って、
       都会で自炊し始めたころは毎日恋しくなったあの味……」

(´・ω・`)「そのようだね。」


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 02:40:01.29 ID:pYxLBRX70

( ^ω^)「き、君は!」

僕は後部座席からショボンにつかみかかった。
慌てたショボンはハンドルを切って急ブレーキをかけたが、車は畔に乗った。

( ^ω^)「き、君はさっきからどうしてそう平然としていられるんだ!
       この有様を見て何も感じないのか!
       『そのようだね』とはなんだ他人事のように!
       君だってここで幼少を過ごした仲間じゃないのか!
       ツンを知っているのだろう?
       ドクオを知っているのだろう? 
       僕の母を知っているのだろう?
       そして君はここで生きてきたんだろう?
       どうして……どうして……」

ショボンは何も言わなかった。僕は手を放すと彼に謝罪した。


( ^ω^)「すまない。激昂し過ぎた。」

(´・ω・`)「いいんだよブーン。……誰も悪くないんだよ。」

畔に乗り上げた車を慎重に道に乗せると、ショボンは再びアクセルを踏んだ。

僕の家につくと、その外見は大きく変わらなかった。
しかしこれまでの例に漏れなく、恐らく中身は変わってしまっているのに違いない。
当座の寝どころになれば、それで差支えない。そう思った。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 02:51:14.84 ID:pYxLBRX70

( ^ω^)「朝から半日すまなかったね、ショボン。ありがとう。お代は……」

(´・ω・`)「や、遠慮はいらない。」

( ^ω^)「すまない。」


そう言い終えた後、誰もいない僕の家の庭に、不思議な沈黙が広がった。
それは、云わば嵐の前の静けさだった。
そしてショボンは、別れ際にこう言ったのである。



(´・ω・`)「ブーン、『ようだね』『ようだね』って推量してるのは、僕じゃなくて君だよ。
     
      僕は知ってるよ。ツンも、ドクオも、君の父さんも母さんも、
      僻地医療研修で帰ってきたちんぽっぽも、結局彼女と結婚したわかんないですも、
      天寿を全うした荒巻先生も、交通事故で死んだクールも、
      借金で首が回らなくなって夜逃げした長岡も、みんな、みんな知ってるさ。
      だから僕は懐かしいと思わない。変わってしまったとも思わない。
     君がそう思うのは、勝手にそれを過去のものだと思ってるからだろう。
     ドクオも言ったじゃないか。君の「過去」は僕達の「現在」なんだよ。
     
     君は本当は何も知らないんだよ。だから、悲しいんだよ。」




32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 02:56:37.13 ID:pYxLBRX70

その後の事について僕は語る事を多く持たない。

僕は家へは入らずに再びショボンのタクシーに乗り、駅へ折り返した。
公衆電話で診療所へ電話すると、母への僕の帰郷を伝えないで欲しいとだけ言伝して、
一時間ほど駅のホームで呆けた後僕は再び列車に乗った。


あの日から、僕は一度もあの村へ戻る事はない。
そしてこれからも無いだろう。

ずれてしまった時間の中で、どこか高いところから見下ろすことしかできなくなった僕にはもう、

故郷は無い。



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 03:03:42.30 ID:pYxLBRX70


思うに、懐古となべて独りよがりなのでは無かろうか。

そこに誰かが今生きているのを、勝手に過去のものとしてしまって、

それを勝手に評価しているだけなのだ。


僕はあの時代を確かに懐かしく思う。

と、同時に、僕は今そこにいないことを確信する。

だからこそ、そこへ戻ってきてはいけないのだ。

美しい思い出や理想は、美しいままに胸の内に秘めておくが良い。

そうすれば、僕は沢山の花に囲まれて、

死ぬことができるだろう。




                           おわり

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 03:05:15.88 ID:pYxLBRX70
実に三年半ぶりの投稿でした。

ブーン系小説もずいぶんと傾向が変わりましたね。

夜遅くまでお付き合いいただきありがとうございました。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 03:09:27.63 ID:hs7+TTH70
>>36
乙。聞いていいのかわからんが、最近のブーン系をどう思う?

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 03:12:23.19 ID:pYxLBRX70
>>37
裾野が広くなっていて良いと思いますよ。
でもまとめサイトも増えて、まとめスレまであって変に統括されてる部分は惜しいなと思います。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 03:17:39.94 ID:byAlm2x9O
面白かった。とても考えさせらせた


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 03:20:41.08 ID:VD/aj3ntO
<丶`∀´>蕎麦屋さんとかあの時代の人ニカ?


面白かった

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/06(木) 03:23:56.38 ID:pYxLBRX70
>>40
>>41

まりがとう。

自分は記憶喪失のちょっと前くらいの時代ですね。
あの作品は一つの頂点だったと思います。

( ^ω^)ブーンが「ようです」「ようです」に疲れ果てたようです





  
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★僕の小規模なブーン系生活  ★Author→小規模/ブーン系生活

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