3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:19:16.46 ID:XrPv8jslO
※
甲高いベルの音が校舎内に響き渡る。
耳に突き刺さるその音に、ブーンも皆も驚いて固まった。
(;^ω^)(?! 警報器?! 何事だお?!)
『……現在校内にいる全人間に告ぐ! 即刻校内から退避せよ!』
ベルに混じり女性の声がスピーカーから発せられた。
女性の声は繰り返す、と言い、
『即刻校内から退避せよ! これは訓練では無い!』
(;^ω^)(……どうなってるんだお……? 聞いたこと無い声だお……)
_
( ゚∀゚)「……皆!!」
困惑に騒つく教室で、ジョルジュが一際大きい声を上げた。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:20:54.33 ID:XrPv8jslO
皆の視線の中、ジョルジュは両の手を口元に添え、
_
( ゚∀゚)「何ボサッとしてんだよ! 言われた通り避難しようぜ!」
从;゚∀从「は? ちょっと待てよジョルジュ!」
ハインリッヒが負けず劣らず大声で言う。
从;゚∀从「何言ってんのかわかってるのか?! いきなりあんなわけの分からない声、信じるのかよ?!
大体今のじゃ状況が全く掴めてないぞ! もしかしたらただの悪戯じゃないのか?!」
_
( ゚∀゚)「――違うって!!」
ジョルジュは断言する。
_
( ゚∀゚)「今は俺を信じて、皆従ってくれ! ――頼む!」
ジョルジュの目は真剣そのものだ。
ふざけて言っているわけじゃない。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:22:30.96 ID:XrPv8jslO
(;^ω^)(……ジョルジュ……?)
教室に緊張が走る。
更に膨らむ騒めきの中、
从 ゚∀从「……よくわからないけど、後でちゃんと説明してもらうぞ」
_
( ゚∀゚)「任せとけって」
目を合わせ頷く。
从 ゚∀从「よし、お前ら! 授業サボるぞ! 心配いらねえ、教師から文句来たら
“ジョルジュ君が出てかないと掘るぞと脅されて”って言っとけっ!」
またもや教室に、主に半数に沈黙の形で緊張が走った。
再び皆の視線の中、ジョルジュはズボンのジッパーに手を掛け、
_
( ゚∀゚)「――掘られたい奴はやらないか――!!」
「「「アッ――!!」」」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:23:57.43 ID:XrPv8jslO
ある者は尻を押さえ飛び出し、ある者はケータイのカメラを起動して居残ろうとし、
ある者はそんな奴らの襟首を引っ掴んで引き摺りだす。
一斉に人が居なくなった教室に残ったのは、ブーン達三人だけだ。
_
( ゚∀゚)「よし、俺達も行こうぜ」
おう、とハインリッヒが頷き、ブーンもそれに続こうとして、
( ^ω^)「―――」
何かが聞こえてきた。
最初は耳鳴りだと思った。
鼓膜を貫く電子音は一瞬で奥へ駆け抜け、
(; ω )「――!!」
頭の奥を刺し貫くような痛み。
視界を稲妻が覆い、意識が飛んだ。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:25:38.03 ID:XrPv8jslO
※
“それ”は何も憶えていなかった。
今がいつで、ここがどこで、自分はなんなのかすら。
ただ一つわかること。
それは自身の奥に、体を突き動かすものが蠢いていることだった。
――憎い。
壁、階段、窓、扉、机、椅子、黒板、花瓶、花、蛍光灯、箒、バケツ、雑巾、カーテン、
掲示板、消火器、警報器、床、天井、重力、温度、空気、音、光、およそ映り触れ感じるもの。
――全て憎い。
投げて叩いて千切って壊して潰しても、収まらない。
――何故こんなにも憎い。
その時、五感が何かを捉えた。
人。
見たことある服を来た、知らない顔の女。
四角い空間から細長い空間に首を出したら、目が合った。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:27:42.49 ID:XrPv8jslO
何か叫びながら背を向け、自分から遠ざかっていく。
声。
姿。
恐怖に歪む顔。
必死に走ろうとする動作。
その全てが、蠢く何かを逆撫でした。
怒り叫び、飛び出す。
前倒し気味の体は一歩目で最高速に乗り、距離を詰め、女の背中に手が、
――?!
届かなかった。
何故なら、
('、`#川「――っ!!」
女を掴む寸前、真横から飛び出した女に突き飛ばされたからだ。
顔面を、棒のような物で突かれた。
ベクトルがずれ、追っていた女の横を転がり、壁にぶつかる。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:29:42.96 ID:XrPv8jslO
目が回った。
('、`#川「そのまま走って! 逃げなさい!」
突き飛ばした女がこちらに棒を向け叫ぶ。
立ち上がった時には、追っていた女は居なかった。
――この女……!
知っている。
自分はこいつを知っている。
――憎い……!
今までに無いほど、体中を痛く蠢いた。
咆哮し、牙を剥きだし、目を見開く。
――必ず、殺してやる……!!
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:31:34.88 ID:XrPv8jslO
※
「……! ブーン!」
( ω )(――呼ばれてるお)
_
(; ∀ )「……かりしろ! ブーン!」
( ω )(――さっきのは、何だお? 姉さん……?)
从; ∀从「どうしたんだおい?! ブーン起きろ!」
( ^ω^)「……お」
ゆっくり目を開ける。
視界の真横には壁があって、体がそれに張り付いている。
隣には壁に垂直に足を着けたジョルジュとハインリッヒが、膝を折ってブーンを伺っている。
今、ブーンは俯せに倒れて込んでいた。
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:33:18.45 ID:XrPv8jslO
_
(;゚∀゚)「ブーン! 大丈夫か?!」
从#゚∀从「いきなり倒れんな! びっくりするだろうが!」
ブーンが気が付いたのに気付き、安堵の表情のジョルジュと怒るハインリッヒ。
ごめんだお、としっかり立ち上がる。
( ^ω^)「急に頭痛がして、今は大丈夫だけど……どうしてたんだお僕?」
こめかみに手を当てる。
先程の痛みは、毛の先ほども残ってない。
从 ゚∀从「ふらっと倒れて一分くらい気絶してたんだよ、お前」
_
( ゚∀゚)「貧血か何か? とにかく今はここを出るぞ。 歩けるか?」
( ^ω^)(……夢、だったのかお?)
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:34:47.42 ID:XrPv8jslO
それにしては妙な生々しさがあった。
分からない。
だが気にしても仕方ないと思い、ジョルジュに頷いて三人とも教室を出る。
その時、
⌒*リ´;-;リ「――助けて! 誰か!」
廊下の一番奥から、小柄な女生徒が駆けてきた。
女生徒は目尻に涙を浮かべ、息も絶え絶えだった。
尋常な様子じゃない。
よろけ倒れそうな彼女を、直ぐ様ハインリッヒが支えた。
从;゚∀从「お、おいどうした? 何があった?」
⌒*リ´;-;リ「誰か……生徒、会長が……!」
(;^ω^)「! 姉さん?!」
_
(;゚∀゚)「生徒会長がどうしたんだ?!」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:36:15.53 ID:XrPv8jslO
从#゚∀从「馬鹿野郎、黙ってろ!」
目の色を変えるブーン達にハインリッヒは一喝すると、ゆっくりと優しげに話し掛ける。
从 ゚∀从「落ち着け。 大丈夫だ、深呼吸しろ。 ……一体何があった?」
震えながらも女生徒は言われた通り何度も深呼吸すると、やがて嗚咽混じりに話しだした。
⌒*リ´;-;リ「忘れ物、して。 すぐ、戻るつもり、で。 そしたら、教室、から、ば、化け物が……」
この時、他の二人は化け物という単語に固まっていたが、ブーンには嫌な予感がよぎっていた。
(;^ω^)(……まさか……)
違う、あんなものは。
ただの夢だ。
――あんなことが、現実に起こるはずが無い。
⌒*リ´;-;リ「逃げよ、としたら、捕まりそうに、なって。 そしたら、生徒、会長が」
――逃げろ、って。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:37:43.32 ID:XrPv8jslO
(; ω )「―――!」
息を飲む。
ブーンは理解した。
慌てていて支離滅裂だが、この子の言っていることは本当だと。
何故かはわからないが、自分の見たものも事実なのだと。
そしてそれは、
(;^ω^)「――姉さん!」
ペニサスが危ないということだった。
二人の制止の声も聞かず、女生徒の走ってきた方へ走りだす。
さっき見た映像が現実なら、
(;^ω^)(――四階!)
廊下奥、突き当たりの階段を全速力で駆け上った。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:39:42.92 ID:XrPv8jslO
※
ペニサスは廊下で、箒を構え化け物と対峙していた。
化け物との距離は約三歩分。
相手も構え牽制しながら、じりじりと間合いを狭めていく。
('、`;川(――なんなの、こいつ)
先程箒を突いた両手は、鉄を殴ったように痺れている。
ありえない程硬い手応えだった。
相手は人間に近い二足歩行をしているが、決して人間では無い。
大きい目は水晶体のように硬質。
頭髪の無い頭部の前側には、鬼のような一本角。
ワニのように耳まで裂けた口は、猛獣を思わせる牙を備え。
鎧のように角張った灰色の体の表面は、ぬめって不気味に光り、間接の隙間から覗かせる筋肉は紫。
筋肉と同じ色をした太い舌は、牙の間から垂れてびくりと脈動している。
まるで非現実的生物が、目の前に存在していた。
('、`;川(――さっきの警報とかは、こいつの事なの……?)
ペニサスはその姿に、悪寒で身を竦ませた。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:41:37.59 ID:XrPv8jslO
('、`;川(――とにかく今は……)
避難している人達の為に、時間を稼ぐ。
怖くないわけではない。
出来るなら背を向けて逃げ出したいし、気を抜けば足が崩れそうだ。
だが、それでも、
('、`#川「あんたなんかの好きにさせないわよ……!」
既に距離は二歩分。
先手必勝、右足を一歩踏み両手で箒を握ると、取っ手側先端で突きを放つ。
狙いは首、喉仏。
そこは他と比べ間接の隙間が大きい。
頑丈そうな体だが筋肉を、しかも人間ならば急所となるところなら、
直接叩けば大きなダメージになるかもしれない。
腕を伸ばし切り、高速に乗った先端はしかし、
( q,,p)「――!」
広げた手の平で容易く受け止められる。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:42:37.95 ID:XrPv8jslO
('、`#川(――まだ!)
しかし、その程度は予測内。
つんのめるような勢いはそのままに、両手を箒から手放した。
箒の下を潜るように身を屈め、左足を踏み込む。
踏み込んだ足を軸に、後ろにある右足を引き寄せた。
大きく振り回す。
刈るような蹴りで左踝の間接を狙った。
('、`#川「――っ!!」
当たった。
極太の鉄柱を蹴ったような反動と衝撃に、想像以上に足の骨が痺れる。
ヒビが入ったかもしれないが、構わない。
両足を掬うように振り抜いた。
( q,,p)「――ダッ?!」
足を掬い上げられ、化け物が左肩から床に落ちた。。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:43:55.29 ID:XrPv8jslO
('、`#川(――足の痛みが来る前に追撃!)
立ち上がり様に両手を上へ。
手に落ちてくるのは、手放した箒。
捕まえて振り上げ、無防備な喉へ振り下ろす。
これで気絶でもしてくれれば儲け物だ。
手負いでも楽に逃げ切れる。
だが振り下ろすよりも早く、
( q,,p)「ニダア!」
('、`;川「な――」
化け物の口から矢のように放たれた舌先が、右肩に突き刺さった。
('、`;川「っ――!」
貫かれる痛みに手から箒が離れた。
衝撃で体が宙を浮き、背後へ飛ばされる。
受け身も取れず、背中から床に叩きつけられた。
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:45:42.37 ID:XrPv8jslO
肺から無理矢理空気が押し出され、息が詰まる。
('、`;川「――かっ、あ?!」
呼吸が出来ず体が勝手に空気を吸い込もうとして、肺が痛んだ。
咳き込み、鼻の奥が刺激される。
それでもなんとか立ち上がろうと、
( q,,p)「ニィダアア!!」
先に立ち上がった化け物が腹部を蹴り飛ばした。
重たく苦しい一撃をまともに喰らう。
悲鳴を上げる間もなく世界が転がり、床を滑る。
摩擦で停止した途端、砕けた足と刺された肩と蹴られた腹を激痛が襲った。
呼吸すら許されない痛みに加え、体中の疲労感に意識が痺れていく。
( 、 ;川(――このまま、じゃ……)
ここで気を失ったら、確実に化け物に殺される。
( 、 ;川(――何とか……耐えて……)
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:46:49.83 ID:XrPv8jslO
必死に意識にしがみつこうとする。
しかし耐えられない。
視界が急速に薄れていき、悔しさが胸を締める。
( )「―――よく頑張った」
気を失う寸前、突然近くから男の声がした気がした。
( 、 川(――だ、れ……?)
その声は力強く、優しげに、
( )「――後は、任せろ」
そしてペニサスは、意識を完全に手放した。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:48:22.47 ID:XrPv8jslO
※
階段を二段飛ばしで駆け上りながら、ブーンは奇妙な声を聞いた。
それは猛獣の唸り声に似ていたが、聞いたことも無いような醜悪な声だった。
きっと、あの化け物の声に違いないだろう。
(;^ω^)(……姉さん、無事でいてくれお!)
三階と四階間の踊り場を過ぎ、走るように駆け上った。
上り切った廊下には、三つの人影があった。
一つは、夢で見た化け物の背。
もう一つは、奥で肩を血で濡らし倒れるボロボロのペニサス。
そして最後は、
(;^ω^)(……さっき校門に居た……!)
二人の間に立つ、フルフェイスのヘルメットを被った黒服の人物。
黒服はペニサスを背に、化け物と向かい合っている。
倒れたペニサスを黒服が庇うように、化け物に立ち塞がっているように見えた。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:50:19.80 ID:XrPv8jslO
姉さん、と思わず叫びそうになって、
( )「……動くな」
無感情な男の声が響く。
発したのは、化け物と対峙した黒服だ。
顔は化け物から逸らさなかったが、視線を感じたブーンは自分に言ったのだとわかった。
( )「俺が引き付ける。 その間に連れて逃げろ」
(;^ω^)(……一体何者なんだお……?)
淡々とした口調に、聞き覚えは全く無い。
格好だけ見ればどう見ても不審人物だ。
怪し過ぎる。
だが黒服の後ろにはペニサスがいる。
怪我をして、気を失っているのか動かない。
(;^ω^)(……信じて、いいのかお?)
否、今は信じるしかペニサスを助けられないのだ。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:52:05.03 ID:XrPv8jslO
頷くと黒服が視線を正面、化け物へ向けた。
(;^ω^)(……でも、引き付けるって言ってもどうやって……)
( q,,p)「……ドケエエ……ジャマダニダア!」
(;^ω^)(――な……?!)
猛獣が吠えるような声で、化け物が人語を喋った。
化け物は黒服に見せ付けるように、大口を開け鋭利な牙を向ける。
( q,,p)「ウリワ、ソノオンナヲコロスニダア!
ジャマヲスルナラ、オマエモコロスニダアア!!」
( )「……黙れ脳無し」
だが黒服は化け物の前で平然としていた。
( )「理性のあるうちに殺されたいなら大人しくしていろ、楽にしてやる。
嫌だと言うなら――」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:53:13.23 ID:XrPv8jslO
( q,,p)「フザケロニダアアアッ!!」
化け物が一瞬で間合いを詰める。
瞬間、まるで感電したような痛みが瞬きほどの間脳を流れた。
黒服の体が稲光を纏い、黒服の姿が無くなる。
代わりに黒服の居たところに、
( ЯмR)「――無理矢理殺す」
新たな黒い化け物が現れた。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:55:34.20 ID:XrPv8jslO
※
ブーンは、黒の化け物が灰色の化け物を叩き潰したのを見た。
灰色の頭を掴み、床に叩きつけたのだ。
爆音とともに床は砕け、その中に灰色の顔面が埋まっている。
(;^ω^)「………」
言葉を失うとは、正にこの事だと思った。
獲物を裂く為の凶悪な爪。
体中を覆う刺々しい黒の甲殻。
深紅に妖しく光る、魔性の眼。
頭から一対生えた、金に輝く大山羊の捻れ角。
恐怖を感じさせるその姿はまるで、
( ЯмR)「………」
悪魔のようだった。
( q,,p)「二イ……ダア……!」
押さえ付けられた手を外そうと、灰色が黒の腕を掴んだ。
だが押しても引いても、黒の腕はびくともしない。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:57:40.82 ID:XrPv8jslO
黒は頭を掴んだまま持ち上げ、灰色を宙吊りにする。
そして、
( ЯмR)「――!」
空いている拳を振り被り、ボディブローを叩き込んだ。
( q,,p)「ガッ!」
鉄を打つような音がくぐもって響き、灰色が身をくの字に折る。
もう一度振り被り、二発目。
三発目。
連打を叩き込む。
四発目を振り被ろうとした時、拳を捕まれた。
黒の両手を封じた灰色は、バネのように足を折り縮め胸に蹴りを放つ。
( q,,p)「ニィダア!」
( ЯмR)「……!」
堪え切れず、灰色を離し後退する黒。
その隙に距離を取った灰色は、伸ばした舌を蛇のように操り黒の首に巻き付けた。
絞め落とそうとするように舌を引き絞り、首を絞める。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 00:59:21.14 ID:XrPv8jslO
黒は舌を外そうと掴んで藻掻くが、がっちり巻き付かれ外れない。
(;^ω^)(……まずいお!)
このままでは黒がやられてしまう。
焦るが、ブーンにはどうすることも出来ない。
朝の出来事が頭の中を過る。
( ЯмR)「クッ……!」
黒が腕を振り、何かを掴むように手を広げた。
すると手の上に細長い稲光が迸り、そこに武器が出現した。
斧と槍を組み合わせたような形。
身の丈を超える長さの、黒いハルバート。
一閃、舌を斬り払った。
斬られた舌から体液を散らせ、灰色が悲鳴を上げた。
巻き付いていた舌を引き剥がし、黒が地を蹴る。
首を掴み上げ、円盤投げのように振り回した。
黒の竜巻は軌道上にあった壁を打ち壊し、窓に投げ付けた。
灰色の豪速球はガラスを高音とともに散らせ粉砕。
外へ落下していった。
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:00:42.09 ID:XrPv8jslO
( ЯмR)「……今のうちだ」
(;^ω^)「……!」
そう言うと、黒は灰色の後を追って窓の外へ飛び出した。
言われはっとなった。
(;^ω^)(――何傍観者になってるんだお!)
急いでペニサスに駆け寄る。
姉さん、としゃがんで呼び掛けるが、動く気配は全く無い。
肩に広がる赤色は止まらい。
最悪の想像に目が潤むのを、必死で堪える。
(;^ω^)「どうすれば……」
気を失っている人間を無理に動かすのは危険だ。
かと言って、ここに置いていたら出血死してしまうかもしれない。
止血が必要だ。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:01:48.63 ID:XrPv8jslO
ハンカチを取出し、肩の付け根をしっかり縛った。
次はどうすれば、と考えたその時。
_
(;゚∀゚)「ブーン!」
追い掛けてきたのだろう、背後からジョルジュの声が聞こえてきた。
ジョルジュ、と言おうと振り返って、
(;^ω^)「―――」
目に飛び込んできたのは。
こちらに駆けてくるジョルジュと。
その後ろ、屋上へ続く階段から表れた、
( q,,p)「――アア?」
こちらを見ている灰色の化け物。
ジョルジュは、気付いていない。
(;^ω^)「逃げろおジョルジュ――!!」
_
(;゚∀゚)「?!」
叫び、ジョルジュが気付き振り返る。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:04:14.29 ID:XrPv8jslO
遅過ぎた。
既に背後に迫った新たな灰色は、低い姿勢で太い腕を振り被った。
フルスイング。
腕がジョルジュを捉え吹っ飛ばし、壁に叩きつけられた。
轟音とともに、木材が折れたような音が鳴る。
が、とジョルジュの口が動き、床に崩れ落ちた。
( q,,p)「……ウウン?」
化け物は振り抜いた手をぶらぶらと振ると、首を横に傾けた。
まるで自分のしたことが理解できないかのように。
(;^ω^)(……ジョルジュ……!)
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:05:27.68 ID:XrPv8jslO
最悪だ。
どうする。
――二人を置いて逃げてしまうか?
(; ω )(……そんなこと出来るわけ無いお!)
立ち向かうか。
――非力なくせにどうやって?
(; ω )(……くっ……)
――自分には何も出来ないのか?
(# ω )(……違うお……!)
違う。
そうじゃない。
やらなくてはいけない。
何故なら、非力だろうと不可能だろうと、
(#^ω^)(――二人を守れるのは、僕しかいないんだお!)
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:06:51.16 ID:XrPv8jslO
今立ち上がらず、何時立ち上がるというのか。
あ、と口に出せば、自然と連なる叫びとなった。
(#^ω^)「――!」
不安を打ち消すように、震える体が立ち上がる。
( q,,p)「フウン?」
首を傾けたまま、化け物の顔がこちらを向いた。
(#^ω^)「……!」
心臓の鼓動が痛い。
寒くもないのに歯が鳴り止まない。
爪が食い込みそうなほど握り締めた拳は、汗で湿っている。
それでも、決して目を逸らさず睨み付けた。
( q,,p)「……オマエ、ブウン?」
(;^ω^)「?!」
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:07:56.18 ID:XrPv8jslO
野太い声で名を呼ばれた。
先程と同様、この化け物も喋れるということだがそれよりも、
(;^ω^)(――僕を知ってる?!)
(;^ω^)「……お、お前、誰だお?!」
( q,,p)「アア? オレダヨ、サイトウダヨ? ミテワカンナイ?」
(;^ω^)「な……」
ありえない。
(;^ω^)(……この化け物が、サイトウ?!)
確かに、独特の口調はサイトウに似ているかもしれない。
だが人が化け物になるはずが――
(;^ω^)(――ある、あったお!)
そうだ。
この目で見たではないか。
黒服の人物が黒い化け物に変身するのを。
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:09:11.99 ID:XrPv8jslO
ならば先程の化け物、あの妙な口癖は、
(;^ω^)(……まさか、ニダー……?!)
( q,,p)「ダマンナイデクレル? イマスッゲエイイキブンナンダカラサア?」
ガハ、とサイトウを名乗る化け物は、笑うように口を広げた。
( q,,p)「オレ、イマナラナンデモデキルキガスルナア?
テストデヒャクテントレルシ、ジョルジュタチニモマケナイシ――」
ぶら下がっていた舌をぐるりと回して舌舐めずりする。
( q,,p)「――オマエダッテ、カンタンニコロセチャウヨ?」
言葉の端々から、愉悦に酔う狂気が感じられた。
間違いなく、殺す気だ。
姿だけじゃなく、意識も既に正気じゃない。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:10:53.47 ID:XrPv8jslO
_
( ∀ )「……待てよ」
倒れていたジョルジュが、力無くだがしっかりと立ち上がった。
_
( ∀ )「誰に勝てるだって……?」
壁に背中を預け、サイトウを見る。
その左腕は動かず、ぶらんと肩にぶら下がっているだけのように見えた。
(;^ω^)「ジョルジュ、まさか……」
折れて、と言おうとして、
_
(;゚∀゚)「ブーン」
ジョルジュの真剣な声が遮った。
_
(;゚∀゚)「ペニ姉さん連れて逃げろ」
(;^ω^)「! そんなこと出来るわけ無いお!」
_
(;゚∀゚)「いいから聞け」
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:12:53.12 ID:XrPv8jslO
いいか、と告げ、
_
(;゚∀゚)「俺よりお前のほうが確実に逃げ切れる。 昔から、俺より足速いからな。
それで、お前より俺のほうが確実にこいつを食い止められる。
俺は、喧嘩で負け無しだからな」
(;^ω^)「でも!」
_
(;゚∀゚)「心配すんなよ」
ジョルジュが歯を見せ力強く笑う。
_
(;゚∀゚)「俺はハインか死神以外には、殺されないからよ」
壁から離れ、ブーン達を背後に置いてサイトウと対峙する。
_
(;゚∀゚)「さあ、本当に勝てるか見せてもらうぜ。 まさか、今更ビビって前言撤回しないよな?」
( q,,p)「ゼンゲン、テツ……? ウゥン、ナニソレ? マアトニカク――」
サイトウが動く。
鋭くかち上げた膝が、無防備な腹に突き刺さった。
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:14:02.47 ID:XrPv8jslO
( q,,p)「オマエカラコロスヨ?」
膝を着いて咳き込むジョルジュ。
その頭を、床に踏み付けた。
擦り付けるように、踏み躙る。
_
(; ∀ )「がはっ――」
(#^ω^)「――止めるおぉ!!」
他の事など考えなかった。
恐怖を吹き飛ばし、怒りが体を突き動かした。
拳を振り上げ、真っすぐサイトウに突っ込む。
( q,,p)「アア?」
こちらを向いたサイトウの顔、その口から鋭い舌先が顔目掛け放たれた。
危ない、と思うと同時体の重心を横に傾ける。
進行方向が一歩浅く曲がり、舌が耳の横を通り抜ける。
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:15:04.86 ID:XrPv8jslO
避けた、と思った時、
(;^ω^)「ぐ、う?!」
舌が首に巻き付いた。
がっちりと巻き付き引っ張られる。
引き摺られ、サイトウの前に掲げられた。
息が出来ない。
舌は外れず、手足を手当たり次第振り回す。
サイトウの顔、胸を殴り蹴り、しかし舌は外れない。
苦しい。
(; ω )「が……ぁ……」
視界が黒か白か、よくわからない光に覆われていく。
手足の感覚が無く、動いているのか止まっているのかわからない。
( ω )「――………」
視界と体が自覚出来なくなった。
意識が、途切れる。
切れた。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:16:34.74 ID:XrPv8jslO
※
――目の前を色んな映像が駆け抜ける。
姉さんを起こす朝。
ジョルジュやハインと話してる日常。
――だけど鮮やかなそれらは。
男二人きりの受験勉強。
姉さんと一緒にこっそり覗いた、初めてハインがチョコを渡したところ。
――段々と色褪せ。
泣いてる幼いハインと握手してる、泥だらけの幼いジョルジュ。
夕焼けの公園で一人泣いている小さい男の子。
――セピア色に変わり。
姉さんと初めて会った時。
パパさんとママさんに初めて会った時。
――モノクロを過ぎて、光か闇になった。
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:18:05.72 ID:XrPv8jslO
※
……初めまして、私の赤ちゃん。
……貴方に、私から初めてのプレゼントをあげる。
……取っておきの、素敵な名前を付けてあげるわね。
……貴方の名は……
――ホライゾン・ナイト――
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:20:06.83 ID:XrPv8jslO
※
“それ”は愉悦に打ち震えていた。
少し前まで自分が何であるかを考えていたはずだが、今はもうどうでもいい。
自分が何者であろうと、この快楽の前では些細な事だ。
今大事なのは。
目の前のうざったいモノを殺せた事だ。
モノは口をだらしなく開け、四肢は力を抜いて垂れ下がってる。
モノを吊している舌からは、暴れていた時よりずっしりとした重さを感じる。
――ああ、堪らない。
モノの終わる瞬間の、なんと面白い事。
動いていたモノが、二度と動かなくなるのだ。
他ならぬ自分の手によって。
極上の愉悦だ。
――もっと、もっと。
モノを終わらせてみよう。
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:21:19.76 ID:XrPv8jslO
次は足元にいるモノ。
次の次は向こうに倒れてるモノ。
次の次の次はこの世界に溢れるモノ達。
満足するまで、終わらせてやる。
( ω )「……―――」
その時。
吊したモノが微かに動いた気がした。
そして、
――?!
何かが顔面を強打した。 思いがけない衝撃に、よろけ後退する。
解けた舌から着地するモノ。
突き出されたその腕は、白いプレートを纏っていた。
(# ω )「――!」
あ、と連なり続く轟き。
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:23:37.94 ID:XrPv8jslO
モノの体をまばゆい稲光が包み込んだ。
稲光が消える。
そこには。
体を守る白のプレート。
肩から生えた、翼のような紺青色のブレード。
二本角の兜に灯る緑の眼と、額に輝く金剛石。
( ♀※♀)「――!!」
甲冑を身に纏った、白騎士が立っていた。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします投稿日:2008/11/15(土) 01:26:10.94 ID:XrPv8jslO
今回の投下は以上です。支援ありがとうございます。
>>36
>>39
オリジナルです。
( ^ω^)はアウトサイダーになったようです
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1226675711/