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1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:00:47.31 ID:qUrxOtfZ0

私の名前は流石父者。一家の大黒柱でもある今を生きるサラリーマンだ。
最近の悩みは徐々に薄くなっていく私の髪の毛。悲しいがそろそろ育毛剤を買う時期かもしれない。

そして今の悩みは運動不足の身体と、かなりヤバいこの状況だった。

从#゚∀从「逃げんじゃねーぞオッサン!」

(#゚∀゚)つニフ「有り金全部置いていけぇ!」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ぎみゃああああぁぁぁ!」

厄年はとうに過ぎたはずなのに、どうして私はこんな目に合っているのだろうか。
刃物を持って追ってくる若い子から全速力で逃げながら、酸素が欠乏した頭の中でそんな事を考えていた。







彡⌒ミ父者と母者の結婚記念日のようです@@@





2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:02:35.05 ID:qUrxOtfZ0

そもそもの事の始まりは一週間前、仕事を終えて家で寛いでいる時だった。
その日は仕事のすれ違いから会う事も少なくなってしまった姉者と久しぶりに顔を合わせていて
お互い最近の事を話す内に私の恋愛話へと発展していった。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「いやー、今じゃ恐れる程に筋肉ムキムキになった母者だがな、昔は本当に可憐で優しい人だったんだよ」

∬´_ゝ`)「信じがたいわね……思い出フィルターか何か掛けて話しているんじゃないの?」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「そんな事はないぞ……ほら、これが証拠だ」

そう言って私は鞄の中から財布を取り出し、中に挟まっている古びた写真を取り出した。
それは、プロポーズする前日に母者と一緒に出掛けた時の写真だった。

夜のネオンに包まれた京東ワターをバックに写されたその写真には
まだ若く、毛もフサフサな私と今より小柄で優しい笑みを浮かべている母者がいた。

姉者はその写真を見て、驚いたように目を丸くさせながら
そのまま私の方に視線を向けて神妙な表情をした。

∬;´_ゝ`)「凄い……今とじゃ似ても似つかない位に綺麗な母者ね」

 彡⌒ミ
( *´_ゝ`)「はっはっは、可愛いだろう。まぁ母者は今でも可愛いんだけどな」

普段はリビングにいるであろう話題の人物こと母者は今風呂に入っている。
本人の前で言ったからといって暴力を受ける訳でもないが、実際に目の前にしたら絶対に言えない。
恥ずかしいというのもあるが一番の理由に昔と違い恋愛の熱に浮かされていた頃のような気持ちになれないからだ。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:04:27.76 ID:qUrxOtfZ0

∬´_ゝ`)「そういえばさ、父者達の結婚記念日っていつなの?」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「え……」

一瞬私の頭の中が真っ白になる。
そういえば結婚記念日とはいつの事を言うのだろうか。プロポーズをした日か、結婚式を迎えた日か。
昔はしっかり覚えていたのに今となってはこんな様だ、自分で自分を情けなく思ってしまう。

冷や汗をかきながら固まっている私を見て姉者は状況を察したのか
呆れた様に溜息を付くと、空になった私のグラスにビールを注いでくれる。

∬;´_ゝ`)「しっかりしてよ……結婚式を迎えた日が記念日になるのよ」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「お……おお! そうだった! この写真撮った次の日にプロポーズして
       そのちょうど二か月後に式を迎えたんだった!」

∬´_ゝ`)「男の人って大事な記念日とか忘れるから嫌なのよねぇ……」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「そんな事はないぞ! ちゃんと毎年記念日には祝いに……あれ?」

そこまで言って、私は落胆した。
考えてみれば妹者が生まれてから、いやそれより前から記念日の事はすっかり忘れていた。
結婚して七年位の頃は私が忘れてしまっても、母者が祝いにと何かしらプレゼントをくれていた。


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:07:04.89 ID:qUrxOtfZ0

しかし今となっては母者もそんな事を言い出さない。
それどころか、最近会話らしい会話をした記憶もない。
長年夫婦を続けていれば当然の事だと思うが、私は母者との大事な日を忘れていた自分を酷く恨んだ。

∬´_ゝ`)「父者?」

 彡⌒ミ
(  _ゝ )「ああ……私はなんて駄目な夫なんだ。
      愛する妻との記念日を忘れるどころか日々の日常すらもすれ違うなんて……」

∬´_ゝ`)「私に考えがあるんだけど……父者?」

 彡⌒ミ
(  _ゝ )「もしかしたら母者はこんな私に愛想が尽きたのかもしれない……
      いや、間違いなく尽きているだろう。
      こんな夫と一緒にいるよりはそこらへんにいるイケてるメンズと一緒にいた方が……」

∬´_ゝ`)「ねぇ父j」

 彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「何をするんだそこのイケイケメンズめ! 
       私の母者を勝手に奪いやがって許さないぞ!
       食らえ流石父者奥義ハゲだ頭光線だ!」

∬#´_ゝ`)「黙って聞けやこの糞親父ぃ!」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「はい」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:09:04.76 ID:qUrxOtfZ0

鬼の形相の姉者に胸倉を掴まれて思わず黙り込んでしまう。
不謹慎ながらも怒った姉者の顔を見て、そういえば昔よくこうやって母者に怒られていたなと思い出す。
そういう意味では、姉者は若い頃の母者の面影が残っているな。

大人しくなった私を見た姉者は、胸倉を掴むその手を離して一度深呼吸をした。

∬´_ゝ`)「ごめんなさい……ついカッとなっちゃって」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「いや、大丈夫だ。それで何か言いかけてたみたいだが何なんだ?」

汗をかいたグラスを手に取りちびちびとビールを喉に流し込んでいく。
姉者は私の言葉に思い出したような顔をして、ほんの少し私の方に詰め寄ってきた。

∬´_ゝ`)「そうよ、それ。私思うんだけど
      今年は今まで出来なかった分を返す勢いの結婚記念日を計画すればいいのよ。
      聞けば記念日までは後一週間もあるんだし」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「なるほど……しかし、こんな歳になって今更と思われないだろうか?」

∬´_ゝ`)「思わないわよ。
      女はどんなにお婆ちゃんになったって、こんな嬉しいサプライズされたらたまらないわ。
      大丈夫よ、計画なら私も手伝うから」



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:11:20.36 ID:qUrxOtfZ0

腕を組み、優しく微笑む姉者に目頭が熱くなったような気がした。
今や独り立ちし、結婚も控えている愛娘が私の為にこんな事を言ってくれる。
それだけで私は世界で一番幸せな父親なんじゃないかと思ってしまう。

そんな事を考えていると、背後の扉が開かれる音がした。
母者が風呂から上がったのか。そう思い身体を強張らせるも
こちらにやってくる足音に母者特有の重みを感じない。

ならば誰だろうと思い振り向くと私のもう一人の愛娘、妹者が私の胸に飛び込んで来た。

l从・∀・ノ!リ人「妹者も手伝うのじゃー」

∬´_ゝ`)「あら、妹者まだ起きてたの?」

l从・∀・ノ!リ人「トイレに行って来たら父者と姉者がお話ししてる声が聞こえたから聞いちゃったのじゃー」

ニコニコと笑う妹者を膝に乗せる。
妹者くらいの年頃になれば早い子は既に父親を嫌がるのに、この愛娘は嫌がるどころかこうやって来てくれる。
胸いっぱいの幸せを感じていると、綺麗な瞳に私を捕らえた妹者がこちらをを見上げていた。

l从・∀・ノ!リ人「父者ー、妹者も母者と父者の記念日のお手伝いするじゃ!」



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:13:59.34 ID:qUrxOtfZ0

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「手伝ってくれるのかい?」

l从・∀・ノ!リ人「もちろんなのじゃ。妹者も母者の喜ぶ顔が見たいのじゃ」

∬´_ゝ`)「ふふ。これは本格的にやらないとね」

二人の愛娘に母者との恋愛の事で背中を押されるなんて夢にも思わなかった。
いつまでも子供だと思っていたが、私の知らない間にこんなに優しい子になっていたのか。
不意に涙が零れそうになり、慌てて残っていたビールを全て喉に流し込んだ。

その日は母者が風呂から上がり、妹者もベッドに戻る事になって話は一旦そこで終わった。
結婚準備で忙しいにも関わらず姉者は時間を裂いて
普段仕事以外で外に出掛けない私に色々と出かけるのに良い場所を教えてくれた。

妹者は妹者で姉者と一緒にプレゼントを考えてくれたり
兄者や弟者に暫くは母者を刺激しないように大人しくする事と注意を呼び掛けてくれた。



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:16:22.72 ID:qUrxOtfZ0

計画はこうだ。
仕事帰りにあらかじめ姉者が予約してくれたレストランで母者と落ち合う。
後はムードに任せてそのまま出掛けたり、姉者が教えてくれたデートスポットで過ごしたりする。

その間妹者は兄者と弟者の見張りと称して、姉者が帰って来るまで二人の近くにいるらしい。
あの悪戯好きな二人にこの事を聞かれでもしたら何を言われ、何をやらかされるか。
最悪尾行でもされたらたまらない。そういう意味では妹者の役割は重要だった。

プレゼントは姉者の婚約相手に婚約指輪を買った店を聞き、その店で購入した。
銀色のシンプルな指輪の内側にはTtoHの小さな文字。
当の昔に結婚指輪は渡しているが、もう一度若かりし頃に返ってプロポーズをしたい。
そういう思いでこの指輪をプレゼントしたいと思ったのだった。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:18:29.53 ID:qUrxOtfZ0


結婚記念日当日の朝、いつもなら誰一人として見送りに来ない玄関に姉者と妹者が来てくれた。

∬´_ゝ`)「指輪は忘れてない?」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ああ、鞄の中にしっかりと入っているぞ」

l从・∀・ノ!リ人「母者には七時に待ち合わせって言ってるのじゃ。
         誰と待ち合わせなのかはまだ言ってないのじゃ!」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ははは、逆にそっちの方がサプライズ感があっていいじゃないか」

二人の前ではこうやって笑っているが、実際の所とても緊張していた。
もう十数年以上忘れていたイベントを行なうのだ。
姉者は喜んでくれると言ってはいたが、もしも喜んでくれなかったらどうしようか。
嫌でもそんな事を考えてしまうのだ。



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:20:11.96 ID:qUrxOtfZ0

∬´_ゝ`)「父者。顔強張ってる」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「そ、そうか?」

姉者に指摘されて胸の心拍数が上がった気がした。
見栄を張っていたつもりだが、こうも簡単に見透かされては父親としての面目が丸潰れじゃないか。

l从・∀・ノ!リ人「大丈夫なのじゃ! リラックスして行けばいいのじゃ!」

∬´_ゝ`)「妹者の言う通りよ。何年夫婦やってきてるの。
     父者の気持ちなら母者もちゃんとわかってるはずよ」

姉者と妹者に励まされ私の緊張が和らいでいく。
ああ、と頷いて今度は自然な笑みを二人に向けると靴を履いて玄関のドアを開けた。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「それじゃあ、いってきます」

∬´_ゝ`)「いってらっしゃい」

l从・∀・ノ!リ人「いってらっしゃいなのじゃー!」



14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:22:48.28 ID:qUrxOtfZ0

何年振りかの見送りに頬を緩ませて自宅を後にする。
会社に向かうまでの間、考える事は今夜の事ばかりだった。
どんな顔で母者と会おうか、どんな言葉を掛けてあげようか、そんな事ばかりだ。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)。ο(こんな気持ちになるのも久し振りだな……)

まるでプロポーズをする前の若かりし頃の様だ。自然と足も軽やかになる。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「今日も一日……いや、今日は特別頑張るか」

駅に集うサラリーマンに流されながら私は久し振りに気合いを入れてそう呟いた。





17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:25:36.74 ID:qUrxOtfZ0

この時点までは計画通りに進んでいた。
計画が崩れてしまったのは、昼休みを終えて上司に呼び出されてからだった。

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「これ……どうしても今日中に仕上げないと駄目ですか?」

( ・∀・)「頼むよ流石君。君の腕を信用して言ってるんだからさ」

午後からの仕事を終えれば定時時刻に会社から出られる。
そう思っていた私の目の前には、溜息が出る程詰まれた書類の山がそびえ立っていた。
何で今日に限って上司はこんなに大量の仕事を私に任せるんだろう。頼れる同僚なら私以外にも沢山いるのに。

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「今月の決算に会議に使う書類の最終チェック……これは駄目かもわからんな」

一通り書類に目を通すも、これを七時までに終えるのはとても厳しい。
元々私は器用な方ではないのだ。他の同僚や後輩に手伝ってもらおうにも
みんな机に向かって真剣に自身の仕事をこなしていた。

いっそ上司に頼んで早めに帰らせてもらう事も考えたが
今日の書類の中には性急に済まさなければならない物もある。
そんな無責任な事出来るはずもない。私は自身の両頬を思い切り叩いてやる気を起こした。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)。ο(大丈夫……私なら必ずやり遂げてみせる!)

デスクに座り、心の中で自分を奮い立たせるとすぐに書類に目を通した。
今日は大事な日なんだ、いつもの頼りない私ではいられないんだ。
そう思いながら紙面びっしりに書かれた文字を一字一字丁寧に確認をし始めた。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:28:32.35 ID:qUrxOtfZ0

全ての仕事が終わった時には既に定時時刻を過ぎていて、約束の時間まで一時間もなかった。
上司の最終確認を目の前で待ちながらチラチラと時計を見る。今からだと走って間に合うだろうか。
頭の中は母者との約束でいっぱいになっていた私の前で、上司は書類の紙を整えながら笑って私を見ていた。

( ・∀・)「うん、間違いはないみたいだからこれで全部終わりだ。
      まさか君がこんな短時間でここまでやってくれるとは思わなかったよ」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「そ、そうですか」

( ・∀・)「それでついでと言っては何だけどもう少し……」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「それでは私はこれで失礼します、お先になりますね」

( ・∀・)「いや君、もう少し」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「お先になりますね」

( ・∀・)「いやきm」

 彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「お先に! なります! ね!」

(;・∀・)「……あぁ、わかったよ」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「お疲れ様でした!」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:31:48.07 ID:qUrxOtfZ0

上司に頭を下げると、すぐさま帰り支度を整えていた自身のデスクに戻り、鞄を脇に抱える。

部屋から出る際にもう一度頭を下げると、そこから全力疾走で階段を掛け降りた。
エレベーターを使えばいいのだが、ここのエレベーターは移動がとても遅い。
大量の仕事を終え、疲れた身体に鞭を打つようにして五階から一階まで走り抜けた。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ヘイタクシー!」

会社を出るなりタクシーを捕まえる事に成功した私はすぐさま車に乗り込むと
姉者から貰った店までの地図を片手に、息を荒らげて運転手に場所を告げた。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「レストランVIPまでお願いします!」

( ´ー`)「あいよー」

のろのろと走り出す車に、間に合うかと不安になったが時計の針はまだ六時を切ったばかりだ。
車で行けばそんなに時間は掛からないだろう。

鞄の中にある指輪を確認すると、自然と口元が綻びる。
これをあげたら母者はどんな顔をするだろうか。
喜んでくれるだろうか、照れ隠しに殴ってくるだろうか。

乱れた息を整えながら私は窓から覗く灰色の空を眺めて、そんな事を考えていた。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:33:17.04 ID:qUrxOtfZ0


しかし人生そううまくは行かないようだ。
いや、もしかしたらそれは私に限った話なのかもしれない。
目の前に連なっている車に絶望的になりながら、私は額から一筋の汗を流した。

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「何故こんなに混んでいるんだ……」

( ´ー`)「あ、もしかしてお客さん急いでるの?
      この時間帯は大体混むから抜けるのにかなり時間掛かるんですよねー」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「どれくらい掛かるんですか?」

( ´ー`)「シラネーヨ」

腕時計を見る。時間はもう六時半を過ぎていた。
恐らくこの渋滞を抜ける頃には約束の時間は過ぎているだろう。
ならば一か八か。私は運転手に野口英世の顔が描かれた札を渡すと、車のドアを開けた。


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:35:21.11 ID:qUrxOtfZ0

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「つりはいらん!」

車を飛び出すと、再び私は走り出した。
こんなに走るのは学生以来だ。慣れない運動に早くも私の息は上がり、身体の節々もあちこち痛み出している。
しかしそんな事に気にしている暇はない。今は一刻も早く母者の元へ行かなければならないのだから。


見慣れた古い町並みから若者が集うネオン街へと景色は変わる。
街にはあまり来たことがないからここの地理は詳しくない。
私は場所の確認をしようと一度足を止めて地図を見た。

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「えーっと、向かいに本屋とゲーセンがあるから……むむ、ややこしいな」

似たような店が立ち並んでいて、いまいちわかりにくい。
取り敢えず地図を持ちながら目的地に向かおう。そう決めた私は再び時間を確認した。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「六時四十五分か……」

地図を見る限り迷わなければギリギリ時間に着くだろう。
遅れてしまうと時間に厳しい母者に殴られてしまう、急がなくては。
頬を伝う汗を拭うと、私は若者で溢れる街中を駆け出した。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:37:44.49 ID:qUrxOtfZ0

(*゚∀゚)「痛っ」
 
 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「あ、す、すいません」

無理矢理人の合間を縫って走った為、随分と見た目が怖そうな女の子にぶつかってしまった。
いつもならその場に立ち止まって平謝りするのだが、今日はそんな時間も惜しい。
軽く頭を下げて謝罪の言葉を述べるなり私は走り出しそうとした。

しかし、私の身体が前に進む事はなかった。
何故なら、ぶつかっていない方の女の子らしき子に襟首を掴まえられたからだ。

从 ゚∀从「ちょっと待ちなよオッサン」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ひいっ!」

从 ゚∀从「アンタ人にぶつかっておいてごめんで済むと思ってんの?」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「いや、本当にすまなかった。しかし私は今急いでいて……」

从 ゚∀从「オッサンの都合なんて聞いてねぇよ。コイツぶつかって痛そうじゃねぇか」

(*゚∀゚)「ああ痛いよー痛いよー」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「いや……」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:40:14.94 ID:qUrxOtfZ0

痛いと言っている子は、どう見ても演技丸出しの棒読みで腕を押さえている。
ヤの付く人じゃあるまいし、今時の若い子はぶつかるとすぐ骨が折れる位脆い身体をしているのか。

そんな事を考えていると先程私を掴まえた赤髪の子が私の胸倉を掴んで来た。
周りの人は遠巻きに私達三人を見ている。どう見ても助けてくれそうにない。

从 ゚∀从「治療費出しなよ、それが礼儀ってもんだろ?」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ななな、何を言っているのかサッパリなんだが」

从 ゚∀从「ならわかりやすく言ってやるよ。金出しな」

金なら沢山ある。しかしこれを渡す訳にはいかない。
この金は食事代、移動代、その他諸々の為に使ういわばデート資金なのだ。

しかし、何と言っても彼女達は逃がしてはくれないだろう。
せめてこの状況から抜け出す為に私は明後日の方向を指差し、出せる声を全力で絞り出した。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:42:30.94 ID:qUrxOtfZ0

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「あー! あそこにCAT-TUNがいるぞ!」

从*゚∀从「え! マジマジ?」

(*゚∀゚)「キャー! 亀頭様ー!」

私の胸倉を掴んでいた赤髪の子は、手を離すなり目を輝かせて周囲を見渡した。
それは痛いと喚いていた子や、避けるように遠巻きに見ていた子達も反応して
気がつけば若い女の子達は私が適当に指を差した所に向かって走っていった。

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「逃げるなら今だ……!」

そう思った私は彼女達とは反対方向に走り出す。
あの騒動が暫く持ってくれれば有り難いが、どうやら嘘はすぐにバレたらしい。
背後から二つの足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。

(*゚∀゚)「ハイン姐さん! あの野郎逃げたよ!」

从#゚∀从「よくもアタシを騙してくれたね! もう許さないよ!」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「あびゃああああああああぁぁぁ!」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:44:27.99 ID:qUrxOtfZ0


そして現在、私は怒りに狂った彼女達から逃げていた。

通りやすい道を見つけては右へ行ったり左へ行ったりしている内に
辺りは薄暗く、人気のない裏通りらしき道に入っていた。

角を曲がってすぐ近くに裏道を見つけると、迷わずそこに滑り込む。
怒声が横を通り過ぎ、足音が遠ざかっていくのを確認すると一息付き辺りを見渡した。

先程より静かなその通りには小さな店が一、二軒とマンションがいくつか見えた。
地図を確認すると明らかに違う道にいた。目的のレストランは大通りに面した場所にあると描かれている。

これからどうしようかと途方に暮れていたが、奥の方で車の走行音が聞こえる。
見ればそこは先程と同じような街のネオンで明るく照らされており、人の気配も感じた。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「……あそこに出れば大通りに出られるかもしれないな」

時計の短針は七時を差そうとしていた。
予定よりは遅くなるだろうが、今は目的地に着く事が先だ。まずは大通りに出よう。

そうしている内に背後から聞こえる足音が大きくなって来た。
これは早くこの場から立ち去った方がいい。私は重い身体を立たせ走り出そうとした、その瞬間だった。

背中に強い痛みが走り、私の身体は前へと倒れていった。


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:47:29.21 ID:qUrxOtfZ0

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「っわあぁ!?」

とっさに身体を庇って身を丸くする。アスファルトの地面に身体を強く叩き付けられた。
走っていたせいか、はたまた今の衝撃のせいか、身体のあちこちがとても痛い。
背中を足で強く踏まれるも、痛みに耐えながら私は頭上を見上げた。

从 ゚∀从「ハイン様のしょーりー!」

(*゚∀゚)「全くこいつも諦めが悪いね。素直に金差し出せばいいのに」

从 ゚∀从「本当本当。……さぁーて」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「っ!」

倒れても尚抱き抱えていた鞄をあっさりと取られてしまった。
慌てて身体を起こそうと力を入れるも、疲労した腕は押し付けられた足の力には敵わなかった。

从 ゚∀从「カバンチェーック!」

(*゚∀゚)「どれどれ……おおっ、金いっぱいあんじゃん。ラッキー」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「や、止めろ! それは……母者の、母者との……」

从 ゚∀从「なぁーんか言ってるよこのオヤジ。キモいんだけど」

(*゚∀゚)「人にケガさせたんだからこれ位当たり前だろ!」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:49:06.36 ID:qUrxOtfZ0
刃物を持った子の足が私の顔を蹴り上げた。
一瞬視界が火花でちりばめられたかと思うと、右頬が痛みからか熱くなっていく。

どうにも出来ない状況に、抵抗する気をなくしてしまった私は
それ以降鞄を漁られても何も言わずに彼女達を見ていた。

赤髪の子の鞄を漁る手が止まる。
鞄から出て来たのは手の平サイズの白く四角い箱。
それは母者に送る大切な指輪だった。

从 ゚∀从「何だこれ?」

赤髪の子が箱の蓋を開ける。
台に置かれた銀色の指輪を摘むと不思議そうに眺めている。
楽しそうに札束の枚数を数えていたもう一人の子も、指輪の存在に気付き一緒になって見ている。



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:50:41.18 ID:qUrxOtfZ0

(*゚∀゚)「内側に何か掘ってある……TtoH?」

从 ゚∀从「女に贈る物かよ。まさかその歳で今更結婚とかってやつ?」

(*゚∀゚)「ぎゃははははは! 見るからに冴えなさそうなオヤジと誰が結婚すんだよ!

从 ゚∀从「きゃはははははは! 冴えない男と結婚する女もきっと相当なブスなんだろうな」

(*゚∀゚)「あるあるある! 他に結婚する男がいなくて仕方なくみたいな!」



馬鹿笑いをして汚そうに指輪を摘む彼女達に対して、私の中で今までなかった感情が込み上げて来た。
どこにまだそんな力が残っていたのか、背中踏み付けている足を払い叩き
指輪を持っている赤髪の女に掴み掛かった。


65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:52:04.96 ID:qUrxOtfZ0

 彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「貴様達は、貴様達だけは許さん!」

彼女達は私の行動に驚いた目をして見ていたが、刃物を持っていた女が私の前でナイフを振り回した。
線を引くように頬に痛みが走る。けれどそんな事はどうでも良かった。
生涯唯一愛した人を、大切な人をこんな形で侮辱されて黙っていられなかった。

 彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「返せ! 指輪を返せ!」

从;゚∀从「ちょ待てよ、つー! コイツ押さえ付けろ!」

ふらついた足が何かに引っ掛かったと思うと、自然と身体が前に倒れていく。
慌てて揉み合っていた赤髪の子の腕を掴むと、彼女は驚いた顔をして私の腹を蹴る。
とても痛い。今すぐにでも腹を抱えてその場に蹲ってしまい位だ。

けれど、今は自分の身体よりも大切な物があった。
赤髪の子の腕を引き寄せ、もう一方の手で握られている指輪に手を伸ばした。

从 ゚∀从「……っち、んなに大事なら取ってみろよ!」


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:54:52.29 ID:qUrxOtfZ0

指輪が彼女の手から離れる。
弧を描き、金属特有の音を鳴らして路地裏の外へと転がり出す。
私は慌てて赤髪の少女を押し退けると指輪を追いかけた。

明るい街に出た指輪は無数の人に踏まれ蹴られ、私との距離を開いていく。
路地裏から出て来た私を人々は不審な目で見ていた。
そりゃあ、血を流しながら這いつくばって出て来たら不審に思われても仕方ないだろう。

蹴られた指輪は宙を舞う。
指輪の向かう先を知った私は身体を起こして指輪に駆け寄ろうとした。
しかしそれも叶わず、足を絡ませてしまい私はその場でアスファルトに顔をぶつけてしまった。




速い何かが、硬い物体を踏み付ける音が響いた。






81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:57:05.39 ID:qUrxOtfZ0


 彡⌒ミ
(  _ゝ )「……っうわああああぁぁ…………!」

叫びも空しく、車道に転がった指輪は排水溝の側で走る事を止めた。
けれどそれはもはや指輪ではない。綺麗な円はもうそこにはなかった。

アスファルトに水滴が落ちる。一粒、二粒落ちて来た。
暫くすると水滴は雨となって私の身体を打ちつけていく。
予想外の雨に周囲の人は近くの店で雨宿りをしていて、道には傘も差さずに座り込んでいる私だけがいた。

時計を確認する。七時を過ぎていた。
もし今行った所でどんな顔で母者に会えばいいのだろうか。

金も全て盗られた。顔からは血が流れて全身ずぶ濡れ。
更に一番大切なプレゼントすらも無残に形を歪めてしまった。

 彡⌒ミ
(  _ゝ )「……私は、本当にダメな男だな」

誰に言う訳でもなく呟いた言葉は雨音に消えていく。
雨は冷たいはずなのに頬に伝うのは熱い水滴。
そこまで認識して、ああ、今私は泣いているのだと気付いた。

歯を食いしばり声を殺してただただ涙を流す私の中には
たった一人の想い人が背を向けて立っている姿が浮かんだ。


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 00:59:51.84 ID:qUrxOtfZ0



どれくらいそうしていたのだろうか。
とにかく母者の元へ行かなければと思い立ち上がった頃には既に雨は勢いを弱めていた。

路地裏にはあの女の子達もいなくなり
無残にも荒らされた私の鞄だけがそこにあった。

荒らされたの中身を適当に放り込み、歪んだ指輪をポケットにしまいこむ。
折角書いて貰った地図は雨で濡れてしまい、半分以上も読めなくなっていた。
ぱらぱらと降り注ぐ雨を受けながら、重い足取りでやつれた身体を前へと進ませた。

歩いて来た道のりは覚えていない。
道行く人は皆私を避けて歩いていたからぶつかるはずもなく
見知らぬ街をただフラフラと歩いていた。


約束のレストランに着いた頃には腕時計の針は九時前を差していた。
道がわからずただ歩いていたせいだろうか、とうに約束の時間は過ぎていた。

温かな光が上品な店から漏れている。
びしょ濡れになった姿で入れるはずもなく、窓から母者がいるであろう席を探す。

しかし探せど探せど母者の姿は見えない。
二時間近くも放置されちゃ、怒って帰るだろう。そう思うと寂しいと思う反面
こんな情けない姿を見られなくて良かったと思っていた。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:01:41.49 ID:qUrxOtfZ0

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「……大切な日だったのになぁ」

雨に降られ、母者にもあきれられた私の心は既に折れそうだった。

ポケットから指輪の面影をなくした物体を取り出す。
タイヤの跡もついていたそれは半分だけ黒くなっていた。
自然と思い浮かぶのは、今日の為に手伝ってくれた二人の愛娘と最愛の人の事ばかり。

あんなに泣いたのにこの身体はまだ泣き足りないらしく、指輪だった物がぼやけて見える。

 彡⌒ミ
( ;_ゝ;)「姉者、妹者……すまない。母者……本当にすまない…………」

@#_、_@
 (  ノ`)「何をしているんだい」

ふと、背後から聞こえた聞き覚えのある声に私は身体を強張らせた。
一番聞きたかった声なのに、今となっては一番聞きたくない声。
私は振り返る事も出来ず、視線を銀色の物体に落としていた。


99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:02:57.10 ID:qUrxOtfZ0

振り返ることが出来ずにいると、今までさめざめと降り続いていた雨が何の前触れもなくやんだ。
何が起きたのかと思い頭上を確認するも、そこにあるのは赤い空。空の向こう側には水がはねる音が響く。
それと同時に背中から感じるのは怒りと殺気。

冷や汗が流れた次の瞬間、私の首は母者のたくましい腕によって締め上げられていた。

@#_、_@
 (  ノ`)「このあたしを待たせるなんていい度胸だね、あぁ!?」

 彡⌒ミ
(; _ゝ )「うぶぉ……ごめん……な、さ……くるじ……」

息が詰まって上手く言葉が出てこない。
気が付けば私の足は宙に浮いていて、なんちゃって首吊り状態になっていた。
ギブアップの意を伝えるべく母者の腕を軽く叩くと、ようやく苦しみから解放された。

こんなに酸素が美味いと感じたのは久し振りだ。


101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:04:38.19 ID:qUrxOtfZ0

母者を見ると、普段の主婦スタイルとは打って変わって白を基調にした清楚な服を着ていた。
いつもは乱雑なパーマも上品に整えられていて、微かだが化粧もしている。
その姿は見知った妻ではなく、一人の女性であった。

@#_、_@
 (  ノ`)「……どうしたんだい、その格好は」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「いや……これは」

くたびれたシャツには微かに血が染みついていた。
それだけじゃない。雨で血は流れたとはいえ顔は腫れているし、服は乱れたままだ。
私はどう答えようか迷った挙げ句、からからと盛大に笑ってごまかす事を選んだ。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「いやー実はここに来るまでの間にやたらデカい犬に追われてな
       こーんなに、こーんなにデカい犬だったんだ。はははは。
       恥かしいがずっと追われてしまってな、転んだりしているうちに血は出るわ雨は降るわで散々だったんだ」

@#_、_@
 (  ノ`)「アンタはほんっとに馬鹿な男だね」

はっきりとした声で母者に言われると、私はうなだれてしまった。

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:06:31.92 ID:qUrxOtfZ0

母者の言う通り私は本当に馬鹿だ。
今の今まで母者が隣にいる事が当たり前だと思っていて、感謝の心すらも忘れていた。
たった一人の大切な人すら喜ばせる事が出来ない私は、本当に馬鹿で駄目な男だよ。

指輪を握る拳に力が入る。渡す予定のプレゼントもこの有様だ。
今日という最高の記念日を、私は一生後悔する事になるだろう。

そんな事を思っていると、頬に温かい手が添えられた。
視線を上げればそこには見慣れた厳つい顔つきの母者ではなく、柔らかい表情をした母者がいた。

@#_、_@
 (  ノ`)「アンタは昔から何も変わってないね。
     あたしを心配かけないようにして見え見えの嘘をつく所も、どうしようもなく運がなくて駄目な所も
     頑張っているのにそれが全部空回りするところも、何も変わってないよ」

そんなにずけずけ言われたら私の心が折れてしまうじゃないか。
今にも泣きそうな顔をしているであろう私の顔を見て母者は呆れたように笑うと
添えられた手で私の頬を思い切り張り倒した。


110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:09:45.58 ID:qUrxOtfZ0

 彡⌒ミ
(#);´_ゝ`)「母者……流石に今のは痛い…………」

@#_、_@
 (  ノ`)「覚えているかい? アンタがあたしにプロポーズしてくれた日も、ちょうど今日みたいな雨の日だった。
     予定していた約束の場所で傘も差さずアンタを待っていたあたしを
     アンタは三十分も遅れてやって来たんだよ」

 彡⌒ミ
(#)´_ゝ`)「……そんな事もあったな」

その日の事は今でもハッキリと思い出せる。
今日みたいに予想外の雨に、慌てて傘を買って遅れて来た私を
母者はさっきみたいに張り手をしていたんだっけ。

思えばあの日を境に母者の超人的肉体改造が始まったように思う。

@#_、_@
 (  ノ`)「何も変わらずに、ただあたしの側にいてくれた。それだけであたしは嬉しかったよ。
     どうしようもなく駄目で情けない男だけど
     アンタには他の男からは貰えない位の沢山の愛情を貰ったからね」


115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:12:26.32 ID:qUrxOtfZ0

そう言うと母者は、優しく微笑みを浮かべた。
ああ、やはり今日は何と素晴らしい日なのだろうか。
どうしようもなく駄目な私にこの愛しい人は微笑んでくれている。

胸が熱くなり、再び視界が歪むと慌てて目を擦る。やはり歳なのか、随分と涙腺が緩んでいるみたいだ。

一通り言いたい事を言ってスッキリしたのか、母者は傘を下げて畳んだ。
いつの間にか雨は止んでいたらしく、雲の間からは月が覗いていた。

傘を畳むと暫くの間母者は何かを考えるように眉間に皺を寄せていたが
その何かを思い出したらしく、そうだという顔をすると悪戯に笑いながら私の方を見る。

@#_、_@
 (  ノ`)「さて、他にまだあたしに渡してない物があるんじゃない?」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「……と言うと?」

@#_、_@
 (  ノ`)「例えばその手に握られている物とかさ」


121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:14:26.92 ID:qUrxOtfZ0

母者に会って二度目の冷や汗だ。
さっき私を見つけた時は後ろからだったから指輪は見えていなかったし
今も尚指輪を握り隠している事実を母者が知っている訳もはずはない。

私は指輪を握る力を強めると、全力で首を横に振った。

 彡⌒ミ
((;´_ゝ`))「んんんんんんんんんなわわわわわわわわけけ、けなっなっ、いじゃあああっあああないかっかっか」

@#_、_@
 (  ノ`)「本当に嘘をつくのが下手くそだねぇ」

母者はそう言うと強く握られている手を掴み、固く閉ざされた拳を無理矢理開かせた。
無論男ならばここは開かれるのを耐えるべきなのかもしれないが、相手は母者だ。
あっけなく指輪は母者の目に留まり、その表情はしかめっ面になっていた。

@#_、_@
 (  ノ`)「……これは?」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「……すまん。指輪なんだが…………ちょっとした理由でこんな事に……」

ぐにゃぐにゃに曲がってしまったそれはどう見ても鉄の塊。
あの不良少女達のせいとはいえ、守りきる事が出来なかった悔しさに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:15:48.36 ID:qUrxOtfZ0

母者は私の言葉なんか聞いておらず、指輪だったそれをじっくり観察したかと思うと
両指で指輪を掴み、ゆっくりと息を吐いた。

@#_、_@
 (  ノ`)「ふんっ!」

腕の力を使って左右に引き伸ばすと、母者の手元から鈍い音が聞こえた。
まさかと思い母者の掌を覗いてみると、歪ながらも円を描いている指輪があった。

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「流石だな……母者」

@#_、_@
 (  ノ`)「これ位どうってことないさ」

そう言いながら母者は指輪を薬指に入れようとする。
しかしやはり綺麗な円ではないからか、指輪は第二関節の所で行き詰まってしまい入る事は叶わなかった。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「やはりダメか……。また新しい指輪を買って改めて渡す事にするよ」

@#_、_@
 (  ノ`)「いや、これでいい」

指輪を取ろうとした私の手を払うと、母者は鞄から財布を取り出し指輪を中に入れる。
母者の言葉の意味が理解出来なかった私は、払われた手を擦りながら首を傾げていた。

母者は言動を把握していない私を見て一息吐いて見せる。
両手に腰を当て、私から見ても格好いい微笑を浮かべると私の方をチラリと一瞥した。

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:18:43.00 ID:qUrxOtfZ0

@#_、_@
 (  ノ`)「ここに来るまでのアンタの思いを無駄にする訳にはいかないだろう?」

 彡⌒ミ
( *´_ゝ`)「母者……!」

@#_、_@
 (  ノ`)「それと指輪ありがとう、大切にするよ」

そう言う母者の顔には照れた様子なんかこれっぽっちもなかった。
昔はちょっと耳元で囁いただけで頬を染めていたのに、あの頃のようにはいかないのか。


137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:21:46.74 ID:qUrxOtfZ0

@#_、_@
 (  ノ`)「さてと、それじゃあどこか適当なファミレスで腹ごしらえでもしようかね」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ファミレス何かでいいのか? 今からでもどこか良い店に……」

@#_、_@
 (  ノ`)「アンタのその格好で入れると思うかい? 
     それにあたしはああいうやたら洋風かぶれしたものは苦手なんだよ」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「そ、そうか……」

納得いかないが、母者が言うなら仕方ない。
先を歩く母者の隣に立つと、私より小さく固い母者の手を握る。
それに合わせて、母者が私の手を優しく握り返してくれた。

冷たくなった手が暖かくなっていくのを感じながら、私は密かに喜びの笑みを浮かべた。


140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:23:53.06 ID:qUrxOtfZ0

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ところで何故私が指輪を持っているとわかったんだ?」

@#_、_@
 (  ノ`)「アンタ、プロポーズする時も指輪入れる箱なくして手でずっと握っていたじゃないか。
     まぁ、今日のは直感でカマ掛けてみたんだけどね」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「……そんな事もあったな」

@#_、_@
 (  ノ`)「アンタの記憶力の悪さには呆れて物も言えないよ」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「そんな……これでもまだまだ現役なんだぞ」

雨上がりの道を楽しく会話しながら歩く私達の頭上には
少し掛けた大きな月が雲からその姿を現わしていた。
月明りに照らされて歩く二つ並んだ影は、まさに恋人以外の何のものでもなかった。






147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:27:51.04 ID:qUrxOtfZ0
――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――





 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「あばばばばばばぶべえ寝坊した―!」

起きて早々、この家の主人は元気がよろしい。
昨晩、見るからに疲れきっていた彼からは考えられない程だ。
こういう健康体な所はまだ衰えていないらしい。

@#_、_@
 (  ノ`)「飯は?」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「いらん! いってきます!」

@#_、_@
 (  ノ`)「さっさと稼いできな」

朝の挨拶もそこそこに、彼はいつもの仕事着に鞄を持って玄関へ走り出した。
暫くすると扉に何か固い物がぶつかる音がした。

ある程度は何が起こったかは予想出来るものの
昨日の今日という事もあって心配になり、玄関まで様子を見に行く。
そこにはここ数年で一気にハゲた頭の彼が、額を手で覆い隠すようにしてしゃがみ込んでいた。

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:29:45.93 ID:qUrxOtfZ0

@#_、_@
 (  ノ`)「アンタ、大丈夫かい?」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ぜ、全然大丈夫だぞ! それでは行って来る!」

@#_、_@
 (  ノ`)「いってらっしゃい」

数年振りに口にした送り出しの言葉。
改めて言うと新婚時代を思い出して気恥ずかしくなるけれど、そんな事顔に出すはずもない。
今は一人の女、というよりあの人の妻という立場にいるのだから。


155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:31:12.77 ID:qUrxOtfZ0

∬´_ゝ`)「おはよう母者」

@#_、_@
 (  ノ`)「おはよう、今日仕事は?」

∬´_ゝ`)「休みよ。……それより昨日はどうだったのよ。帰って来るなり父者はさっさとお風呂に入って寝ちゃうし
     母者は何も話してくれないし、つまらないわ」

昨日あの人に問詰めてわかった事だけど、どうやら今回の事に姉者や妹者も荷担していたらしい。
考えてみればあんな頼りない人が、あそこまで自分で動ける訳もない。
唇を尖らせて椅子に座る姉者に、私は姉者の分の朝食を用意するために台所に向かった。

@#_、_@
 (  ノ`)「話す程の事でもないさ」

∬´_ゝ`)「でもー……折角父者に色々協力してあげたのに、結果を聞かされないんじゃ頑張った意味がないじゃない」

@#_、_@
 (  ノ`)「人の恋路に口出しするなって言っていた人のセリフじゃないね」

∬;´_ゝ`)「あれはまた別の話じゃない」

慌てて否定する姉者の前にご飯を盛った茶碗と味噌汁、肉じゃがを置いた。
話を逸らすためだろう、間髪いれずに頂きますと言うと口の中にご飯をかきこんでいる。

159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:33:10.07 ID:qUrxOtfZ0

∬´_ゝ`)「あら?」

既に家から出た兄者達の茶碗を片付けていると姉者が不思議そうな声をあげた。
何事かと思い、振り返ると頬にご飯粒をつけたまま私をじっと見ていた。
正確に言えば、私のちょうど胸元で光っているネックレスの飾りを。

@#_、_@
 (  ノ`)「何だい人の事じろじろ見て」

∬´_ゝ`)「ううん……。
     何か母者が指輪以外のアクセサリーを身に着けてるって珍しいなーって」

@#_、_@
 (  ノ`)「そうだねぇ」

∬´_ゝ`)「それに何かそのリングどこかで見たことあるのよね」

訝しげにネックレスを眺めている姉者に構わずさっさと朝の片づけを終えると
ゴミを出して来るよと姉者に合図をして、そのまま外へと出た。


166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:35:10.40 ID:qUrxOtfZ0

珍しく誰もいない住宅街の道を歩きながら胸元のリングに触れる。
昨晩家に帰ってから、あまっていた銀のネックレスのチェーンを見つけ
即席で作ったネックレスなのだ。

朝の様子を見る限り、気付いたのは姉者だけなのだろうけど。

@#_、_@
 (  ノ`)「全くとんだサプライズだよ。
     てっきり忘れていたと思っていたのに、まさかこんな粋な事をしてくれるなんてね」

朝の光に照らされた指輪の裏に刻まれている文字を見る。
TtoHだなんてクサい言葉、今時こんな事書く人がいるとは思わなかった。

けれど嬉しいのは事実であって
指輪を眺めているあたしの口元は自然と緩んでいた。



172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:43:05.39 ID:qUrxOtfZ0

これから先、あと何回あの人とこの日を迎えるだろうか。
もしかしたら今回のような幸せな記念日は暫くないのかもしれない。
けれどそれでもいい。

あの人がどれ程あたしを思ってくれているのかは、あたしが一番良く分かっているのだから。

@#_、_@
 (  ノ`)「……何てね、らしくもない」

少し歪んだ指輪を優しく握り締めると
照れくさくなって誰に言う訳でもなく、バカだねと呟いた。


174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 01:46:49.01 ID:qUrxOtfZ0
以上で投下は終わりです
支援してくれた人、読んでくれた人、みんなありがとう

恋愛経験もないのにこんな事書いていいのかと思ったのだけど書いていて楽しかった
夜遅いのにありがとう。今日もまた一週間頑張ろうな


彡⌒ミ父者と母者の結婚記念日のようです@@@
ttp://yutori.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1223218847/





  
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